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#41
「大地。俺のじーちゃん覚えているか?」
「お前に野球を教えた?」
「そうだ。そのじーちゃん、先月亡くなったんだ」
#42
「俺にもよくしてくれたあのじーさん亡くなったのか……」
大地は天を仰いだ。
「そのじーちゃんが言っていたんだよ。夢うつつに甲子園で洋一が投げる所を見てみたいって」
「それで俺の足を踏んだのか?」
「じーちゃんには時間がなかった。だからあの時、俺は悪魔に魂を売ったんだよ」
#43
『ツーアウトか……。俺に大地の球が打てるだろうか?』
『打てませんよ』
『誰だ?』
『私の名前はフィレンチェ。ワタシは君の味方です』
「洋一? 何だよその手?」
白いベッドからはみ出した洋一の手は真っ白だった。
「大地にも見えるのか? 言ったろ。悪魔に魂を売ったって。後は大地を殺すだけだなんだ」
#44
「うわぁぁぁぁ」
大地は洋一に飛びかかった。
忍ばせていたナイフが光る。
だが、次の瞬間立っていたのは洋一だった。
#45
「それで洋一君を玄関で襲ったのは髪の長い赤い服を着た女性だったんだな?」
「そうです」
「ありがとう。これで犯人はすぐ捕まるよ。では、我々はそろそろ署に戻るよ」
二人の男が病室を後にする。
その物音で椅子に座っている大地が目を覚ます。
「あれ? 何で俺生きているんだ? 確か、洋一にナイフを奪われ、胸をさされたはず……?」
「大地。気が付いたか?」
#46
「洋一? お前は俺を刺したよな?」
「刺したよ」
「なら何で傷がないんだ」
「俺が戻したからさ」
#47
「え!?」
「俺が悪魔から貰った力は対象の時間を戻すことが出来るのさ。出来たカップラーメンを元に戻せる様に」
「な、何で戻した! 俺はお前を殺すつもりだったんだぞ!」
「初めからこうするつもりだったんだ。悪魔に魂を売ると決めた時からな」
「どういう事だ?」
「一度でよかったんだ」
洋一が子供の様な顔をする。
「一度じーちゃんの前で投げられれば……。でももうそれも叶った。だから俺のわがままもここまでだ。後は大地の好きにしてくれ。警察には適当な事を言っておいたし、足の怪我も治っているだろ?」
そこで洋一の体を白が覆い始める。
「洋一?」
#48
友達とは何だろう?
連絡先を知っている人?
仲のいい人?
お互い何でも腹を割って話が出来る人?
いや、きっと人生でたまたま出会えた人の事だろう。
「大地! 俺たち友達だよな?」
「洋一!」
その時、風が――。
大地が目を開けるとそのベッドの上に洋一の姿はなかった。
#49
『大地。何下ばっかり見てるんだ』
「そう言えば、あのセリフは俺が沈んだ時の洋一の口癖だった。さっき、俺を守ってくれたのは洋一だったんだ」
大地がポケットから写真を取り出す。
その写真には洋一がふざけてタバコを吸っているところが写っていた。
「なのに俺は洋一を信じられなかった」
写真を丸める。
その外では流星群が降っていた。
#50
あれから洋一はどうしただろう?
「九回表、ツーアウト、満塁。ピッチャー萩原大地。一点を守り切れるか? 第一球投げた!」
カキーン!
「センター前ヒット! 二塁ランナーも回る! 逆転! 逆転! 城南高校、九回の表で一点勝ち越しました」
「なぁ、フィレンチェ? 何であの時、元に戻ったんだ?」
「ワタシは何もしてない。それでも元に戻ったという事はあの場に天使がいたのかもな」
「立場が入れ替わった青春高校。一点を追いかける展開です。果たして甲子園の切符を手に入れるのはどっちだ」
『大地。何下ばっかり見てるんだ。まだ終わってないぞ』
「そうだな洋一。ここで逆転して、甲子園に行こう!」
二人の暑い夏はまだ始まったばかりだ。
#01
「もうじき夏かぁ……。(私いつまで生きられるんだろう?)」